J-PopやK-Popなどという言葉が存在しなかった時代。おしゃれな音楽というのは、通常米英から入ってくる音楽を指した。しかし、日本の音楽市場では、米国産と英国産は長きにわたる覇権争いがあった。
 60年代前半には、シナトラやビング・クロスビーからエルビス・プレスリーが王座を継いだアメリカが圧倒的に力を持っていたが、60年代の中頃にビートルズが出現し、その主導権を奪う。しかし、60年代の終わりから70年代にかけては、米国産と英国産はそれぞれの勢力を伸ばし、かなり混戦の様相を呈した時代だったといえるだろう。
 この時期のイギリスの音楽の代表格は、クリームやツェッペリン、ストーンズなどのブルース系、クリムゾンやイエスなどのプログレ系、T-Rex、デヴィッド・ボウイからロキシーミュージックや10CCなどに至るグラムロック〜シティ・ポップの流れ。一方アメリカの代表格がカリフォルニアを中心に広まったウエストコースト・サウンドだ。
 ウェストコースト・サウンドの中心と言えば、CSN&Yやバーズ、ポコ、ドゥービー・ブラザース、オーリアンズ、ロギンス&メッシーナ、フライング・ブリトー・ブラザース、サンタナ、そしてなんといってもイーグルスだった。
 特に4枚目のアルバム「呪われた夜」以降はサウンドも洗練され、超ビッグになってゆく。続いて発売された「ホテル・カリフォルニア」はたいていの人が一度は耳にしたことがあるだろう。
 まあ、本当のところマイナー調のこの曲は、アメリカン・デカダンスが随所に感じられる名曲なのかも知れないが・・・、残念なほどビッグ・ヒットになった。ビルボードの全米No.1、1000万枚以上売り上げたという記録はともかく、あの時代、街でもラジオでも毎日毎日この曲を聴かない日はなかったろう。世の中に「陳腐な音楽」があるとしたら、それは間違いなくイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」だと思う。70年代を生きたことがある人間にしか、わからないかもしれないが、そんなわけでイーグルスというのが大嫌いなのである。(笑)

 しかし、今年の秋、三池崇史監督が仕掛けた日本映画久々の大型活劇時代劇に、イーグルスのオリジナル曲が、イメージソングとして使われている。これには少々驚いた。
 その曲が「デスペラード」、邦題は直訳で「ならず者」。彼らのセカンドアルバムのタイトル曲だ。このアルバムはコンセプトアルバムで、アメリカ西部開拓時代のギャングの生き様を描いていると言われている。タイトル曲の「DESPERADO」はスペイン語から来た言葉で、「デスパレートな妻」の「DESPERATE」(崖っぷちの、絶望的な、自棄になる・・)とも同じ語源の言葉。イーグルスの歌は、むしろこちらの意味に引っかけた感じが強い。
 というのは、聴いてみると実にしんみりしたバラードで「ならず者」を連想させる部分はほぼ無い。かつて「ならず者」だったけれど、今は田舎の牧場に引っ込んでいじけている・・・、そんな訳ありの中年男に言葉をかけるといった寂しげな内容の歌である。
 もともとイーグルスというのは、カントリー歌手、リンダ・ロンシュタットのバックに集められたミュージシャンが意気投合して始めたバンドである。当然ながら、音楽のバックグラウンドにはカントリー&ウエスタンが流れているが、本来泥臭く無骨なカントリーの手触りを、究極にまでつるつるで飲み込みやすくしたのがイーグルスサウンドだと言えるだろう。
 イーグルスのサウンドでも、初期の作品にはかなりカントリー調にこだわったものが多いのだが、このデスペラードも例外ではなく、無骨さも泥臭さも感じられない。実にキレイなバラードである。

 シングルではリリースされていないが、いわゆる「通ウケ」の曲で、リンダ・ロンシュタット、カーペンターズから平井堅にまでカヴァーされているが、一番好きなのは、フォーリンのヒットで知られるレブランク&カーのカヴァー。どうせなならここまでAOR風に仕上げた方が納得がいく。(笑)

 しかし、「13人の刺客」にこの曲は必要だったろうか?・・・。単に「ならず者」で強引につなげただけのような気がしてなりまへん。
 映画自体は失敗だったけれど、三池監督の2007年の映画、「スキヤキウエスタン・ジャンゴ」のテーマ曲は実に必然性があった。セルジオ・コルブッチの「ジャンゴ」(続・荒野の用心棒 )のテーマ曲を北島三郎がカヴァーしたのだから最高だ。