紅茶のCMは、なぜか有名曲のカヴァーが多い。
いまオンエア中の、蒼井優が赤い液体の中でただよいながらペットボトルを飲む〜キリンビバレッジの新・午後の紅茶「あっ、新しい」編で流れているのは、80年代初頭に大ヒットしたフィル・コリンズの「You Can’t Hurry Love」。映像には合っているけれど、有名すぎて拍子抜けするような選曲だ。
キリンのCMは消去されてしまいました。仕方ない。
この時期のCMです。
フィル・コリンズは80年代〜90年代にかけて、ソロとしてポップヒットを量産したが、単なる禿げチビオジサンではなく、もともとプログレッシブロックの最重要バンドの一つ、ジェネシスのドラマーである。ハイテク・フュージョンプロジェクト、「ブランドX」にも参加していたほど技術的にも上手い人だが、近年は腰を痛めてドラマーとしてのキャリアは終わってしまったらしい。(歌手としては今年モータウン&ソウルのカヴァーアルバムをリリースしたが、本人は歌手も引退宣言している。)
フィル・コリンズ、その最新アルバムからプロモ映像
ジェネシスというのはもともとカリスマ・ボーカリストである、ピーター・ガブリエルが率いていたバンド。ガブリエルが一方的にバンドを脱退した後、後ろでドラムを叩いていたチビのコリンズが「じゃあ、僕が歌うよ」と宣言すると、他のメンバーはみな笑ったそうだ。しかし、フィル・コリンズはこのときはじめて歌ったわけではない。子供の頃からミュージカル「オリバー」にキャストとして出演していたし、ビートルズの映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 」でエキストラとして出演している。(後には1本だが、役者として映画主演も果たした。)
フィリップ・ベイリーとデュエットした「イージーラヴァー」での芸達者ぶりには、多くのプログレファンが驚いたものだが、そもそも歌や演劇に十分素養があったのである。
ところでこの「You Can’t Hurry Love」という曲は、1966年にヒットしたダイアナ・ロス&シュープリームス(最近はスプリームスと原語に近い表記も多いが、少なくともこの方が通りが良いだろう)の曲のカヴァーである。
当時は、「恋はあせらず」という邦題で知られていた。ともかく有名な曲のまた有名になったカヴァーなのである。キリンと言えば、少し前の、バーベキュー場で、蒼井優がハンバーガーと一緒に紅茶を飲む、「微糖誕生」篇では、ビーチボーイズのやはり超有名な「バーバラ・アン」を使用していた。この曲はビーチボーイズの曲として知られているが、実はリージェンツ(50年代〜60年代初頭に活躍したニューヨークのドゥーワップ・グループ)の原曲があるので、有名カヴァーである。
しかし、午後の紅茶はいつも「有名カヴァー」を使用しているのかと思ったら、一つ前の「みんなでカフェご飯」編「夏のカフェご飯」編では、ソウル・ミュージックの大御所、ルース・ブラウンの決して有名とは言えない「Sugar Babe」を選んでいる。
とにかく威勢の良い曲が選ばれているのはたしかだが、方針がよくわからない。
キリンの紅茶製品のライバルといえるのが、紅茶メーカー、リプトンが出している製品群だろう。最新CMは、キャラクターに柴崎コウを起用した贅沢ロイヤルの「ロイヤルベール」篇だ。ドレスを着て歩いてくる柴崎の前に、「紅茶のベール」のつもりか?CGで作られた水の壁のようなものが何枚も垂れ下がるというCM。イメージはキリンの最新CMに似た感じだが、センスはイマイチ。音楽の方はスタンダード「男と女」のカヴァーが使われているが、これもセンスはイマイチだ。(笑)
YouTubeでは削除されてしまったので、リプトンのサイトからしか見られませんが・・・。(どーせつまらないCMです。)
「男と女」(Un Homme et Une Femme)<1966年フランス映画「男と女」のテーマ曲>は、フランス映画音楽の巨匠、フランシス・レイの出世作である。この人は、60年代末から70年代の頭のあたりまでは大活躍した作曲家で、「白い恋人たち」(冬季オリンピックのドキュメント映画のテーマ曲)、「雨の訪問者のワルツ」(サスペンス映画の挿入曲)などは日本でもヒットになった。アーサー・ヒラーが監督した70年のハリウッド映画「ある愛の詩」(Love Story)ではアカデミー作曲賞を受賞、このテーマ曲に歌詞をつけてアンディ・ウィリアムスが歌ったシングルもヒットしている。
CMで使われているカヴァーは、おそらくピチカートファイブの小西康陽がミックスしたクレモンティーヌ(最近、サントリーのノンアルコールビール ALL-FREEのCMで使用されている「天才バカボン」の唄を歌っている。)のカヴァーがベースになっていると思われるが、多少手を加えているようにもきこえるので、CM用にミックスし直したものなのかも知れない。
いずれにせよ、今の基準からするとちょっとイケていない。まあ、同じフランスの映画音楽家といえば、資生堂UNOフォグバーのCMがミッシェル・ルグラン(シェルブールの雨傘」で有名。)のオリジナル「Di-Gue-Ding-Ding」を巧く使いこなしているのと対照的だ。クリエイティブ、センスとはこのことか?
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