「お願いランキング」というテレ朝系列で放送している本当にどうでもいい深夜番組がある。もともとは半分は、TBSの「BOOT」のような自社イベント広告で、少しだけオリジナル企画が入っているような番組だった。オリジナルの部分も、あまりに金がないので、いつも番組のADが顔出しで電波系の店を取材したり、インスタント食品にでたらめな食材を追加して食べまくってみたり。かなり寒い番組だ。
 しかし、BS、CSと無意味なチェンネル数拡大を続けてきたTV業界のコンテンツ不足は深刻で、この時間帯に他に面白い物がない。仕方なく結構見る羽目になってしまうのだ。同じような理由で見る人が多かったのだろう。最近は予算も少しついたのか、タレントを使った企画も増え、ついには「お願いランキング GOLD」という名前で、(一部)ゴールデン進出も成し遂げた。
 この、どうでもいい番組の中で、もっともどうでもいいと思われる企画が「答え合わせ占い」というコーナーだ。(文句言いながら結構見てるけど・・・。)未来を占うのではなくて、今日の運勢が実はどうだったか答え合わせをするという企画なのだが、占いという詐欺の本質をはき違えた間抜け企画としか言いようがない。「占い」は未来のことだから、たとえ当たらなくても「どきどき」だけはすのだ。終わった後に占いを聞くのは、単に「占いはまぐれ以外で絶対当たらない」ことを検証しているだけで意味がない。
 まあ、企画の駄目さ加減はともかく、このコーナーは選曲が特徴的である。
 なぜか普通のBGMではなくロックの名曲をあえて選曲している。しかも全く共通点のない、毛色が違った3曲(ロングバージョンの場合は、「ルート66」などあと2曲が追加される・・)なのだ。
 最初(幸運度が2位から11位/短縮版の場合)に流れるのは、60年代のイギリスを代表するポップグループの一つ、「ゾンビーズ」のデビュー・ヒット「シーズ・ノット・ゼアー」。スゥインギング・ロンドンの息吹を伝えるクールな曲だが、内容は占いと何も関係ありません。

 ソンビーズは、後にシンガー・ソングライターとして活躍を続けた、シンガーのコリン・ブランストーンと、70年代には「アージェント」を結成して成功を収めたキーボード奏者、ロッド・アージェントらで結成された5人組。彼らはこの曲の他にも「テル・ハー・ノウ」や日本のGS(グループサウンズ)カーナビーツやアメリカの一発屋ピープルがカヴァーした「好きさ、好きさ、好きさ」(I Love You)でも知られるが、なんと言っても一番有名な曲は「ふたりのシーズン」(Time of the Season)だろう。
 世界中で大ヒットになったこの曲が収録されたのは、67年にCBSに移籍して制作された彼らのラストアルバム「オデッセイ&オラクル」。ラストアルバムというか、シングルの寄せ集めではない彼らの唯一のコンセプトアルバムだが、このアルバムを録音直後にバンドは解散してしまい、とうとう本国では発売されない幻のアルバムとなってしまった。しかし、1968年になってアメリカCBSのプロデューサーだったアル・クーパーの意向で「ふたりのシーズン」がシングルカットされると、世界中で大ヒットになったのだ。
 曲がヒットすると営業のバンドが必要となり<偽ゾンビーズ>まで出現したが、ロッド・アージェントの決意が固くついに再結成することはなかったという。
 この曲は、本人たちが演奏したところを誰も見られなかった幻の曲になったのだ。しかし、2004年以降ブランストーンとアージェントは一緒に活動をはじめ、2008年に行われたゾンビーズの40周年記念ライブでは、オリジナルメンバーで、この曲が再現された。素晴らしいの一語に尽きる!(ただし、ギターのポール・アトキンソンは2004年に亡くなってしまったので、彼だけはこの場にはいないのだが・・・。)

 次に幸運度No.1が発表される画面でかかるのが、ホワイトブルース/ロックの女王、ジャニス・ジョプリンが歌い上げる「クライ・ベイビー」だ。
 70年にヘロインの過剰摂取で夭折したジャニスが、まさにそのとき録音中だった遺作「パール」に収録されている。曲自体は、60年代の黒人ソウル歌手ガーネット・ミムズのヒット曲で、彼女がよくカヴァーする作曲家ジョリー・ラゴヴォイの曲でもある。
 しかし、幸運度が1位なのになぜ。「オー!ベイビー!泣かないで〜!」なのかは全然わからない。

 最後の曲がまた全然違って凄い!幸運度が最悪の12位の画面で流れる曲、確かにこのベースのリフを聴くだけで、何かよからぬ事が起こりそうな雰囲気はムンムンに伝わってくる!なんと言ってもプログレだ!しかもイエスの代表曲の一つ、「燃える朝焼け」(Heart Of Sunrise)です。う〜ん、これは確かに音だけで使ったのでしょうね。
 音階をアップダウンするだけなのだが、この異常な緊張感を紡ぎ出すベースは何時聴いても凄みがある。ロック界きっての怪ベーシスト、クリス・スクワイアの面目躍如といった感じだろう。

 この曲は、TVドラマなどでも、常軌を逸した緊張感を盛り上げる場面などでよく使われている。記憶にある限り、最初にこの曲をBGMとして大胆にに使ったのは、「ケイゾク」に続いて、そのスタッフ、キャストをかなり引き継ぎTBS内のディレクター(今井夏木ら)で制作された「Quiz」(2000年)が最初だろう。あまりに唐突に、この曲が流れて驚いた記憶があるが、放映後TBSにはこの曲について問いあわせが多く寄せられたらしい。
 このドラマは、最後にはやや腰砕けになるものの、最後までスタッフ・キャストに犯人を知らせずに制作された実験的なサスペンスドラマで、特に財前直見とまだ無名だった生瀬勝久の演技が素晴らしい。今や程度が低すぎる映画「恋空」の監督として名前が定着してしまった今井夏木だが、TVならばこのくらいの物を撮れるのだから不思議である。オープニングとエンディング(キューバ系アメリカ人歌手、マルティカの1989年のヒット、「トイ・ソルジャー」のカヴァーが使用されている)も、当時としては斬新な編集で記憶に残る出来だった。

 イエスについては、書き出すと長くなるのだが、とにかくプログレッシブ・ロックの代表的なバンドで、多くのスタープレーヤーが参加したことでも知られている。しかし、このバンドはデビュー時にはあまりブレイクしなかった。
(余談だが、イエスはデビュー当時、音楽的にはほとんど関連のないジャニス・ジョプリンの前座として演奏したことがある。)
 オリジナルのメンバーは、バンドの中心でボーカルのジョン・アンダーソン。もう一人のリーダーでベーシストのクリス・スクワイア。ドラマーのビル・ブラフォード、ギターのピーター・バンクス、キーボードのトニーケイである。
 この5人で2枚のアルバムを制作した後、ギターのピーター・バンクスが去り(お尻のジャケット有名なハードロック・バンド「フラッシュ」を結成)スティーブ・ハウが加入。さらにアルバム「サード」の後、トニー・ケイが脱退しストローブスにいたリック・ウェイクマンが参加する。
 アンダーソン、スクワイア、ブラフォード、ハウ、ウェイクマンの5人になって、イエスは驚くべき飛躍を遂げた。商業的な成功や人気面はともかく、音楽的にはこの時期が絶頂であったことは間違いない。
 唯一無二のボーカルとベース。後にクリムゾンに移る、ジャズ的テクニックを備えたドラマー。クラシックギターも弾きこなす、変幻自在のギタリスト。そしてクラシックの教養を備えたキーボード奏者という、際だった個性とバランス感覚を兼ね備えたメンバーが揃った瞬間だったからだ。しかし、イエスはこのメンバーで2枚しかアルバムを残していない。「こわれもの – Fragile」、「危機 – Close to the Edge 」(共に72年)。この2枚が20枚近くもある彼らのオリジナルアルバム中で、今でも代表作である。
 特に「こわれもの」の衝撃度は凄かった。レコードでB面の最後に収められているのが、この「燃える朝焼け」と言う曲だ。

 この後もイエスは、ブラフォードの脱退とアラン・ホワイト(元プラスチック・オノ・バンド他)の参加、ウェイクマンの脱退とパトリック・モラーツの参加、さらに80年代になると、ジョン・アンダーソンと、モラーツの後にバンドに戻っていたウェイクマンが共に脱退したために、「ラジオスターの悲劇」をヒットさせたバグルスのトレバー・ホーンとジェフ・ダウンズの2人を吸収して存続したことともある。
 その後活動が低迷するが、スクワイアがアラン・ホワイトと南アフリカ出身のギタリスト、トレヴァー・ラビンを引き入れて、シネマという名称で活動をはじめ、最終的に初代のキーボード、トニーケイとジョン・アンダーソンを誘い、プロデューサー、トレヴァー・ホーンのもとイエス名義でアルバム「ロンリーハート-90125」を発表する。シングルカットされたラビンの曲「Owner Of A Lonely Heart」過去最大のヒット曲となった。
 この後は、さらにまたこのバンドを脱退したアンダーソンが、ハウ、ブラフォード、ウェイクマンを誘って「ABWH -アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ」を結成。(ベースは、トニー・レヴィンが弾いていた。)一方、「イエス」の名前を維持していたスクワイアとレビンの側も、ビリー・シャーウッドを加えて活動。
 どうなることかと思われたが、ABWH がアルバムを制作中に、マテリアルが足りなくなり、レビンに楽曲の提供を打診したことから、ABWHとイエスが全部合同でイエスを名乗り、アルバム「結晶 – Union」を発表することになったのだ。この状態は、一時期しか続かなかったが、ツアーも行われており、目を疑うような豪華競演のステージが見られた。何しろ、アンダーソン、スクワイア、ハウ、ブラフォード、ウェイクマン、トニー・レビン、トニー・ケイ、アラン・ホワイトというWギター、Wドラム、Wキーボードといメンツなのだからそれは凄い。このメンバー(8人イエス)で、「燃える朝焼け」を演奏している映像があるので、是非ご覧頂きたい。笑ってしまうくらいゴージャスだ!

Union Tour part1

Union Tour part2

 結局この後イエスはどうなったのかというと・・・・やはり迷走は続いている。(笑)2008年にイエスは、アンダーソン、スクワイア、ハウ、アラン・ホワイトに加えて、ウェイクマンの息子であるオリバー・ウェイクマンを加えた5人で、40周年のワールド・ツアーを企画していたが、アンダーソンの病欠によりツアーは延期された。アンダーソンは復活するまで半年ほどの延期を希望したが、残りのメンバーがアンダーソンを見捨て(?)、カナダのイエス・トリビュート(ものまね)バンドのボーカリストだったベノワ・デビットをリクルートしてツアーを行ってしまったのだ。
 激怒したジョン・アンダーソンは、回復後もバンドとは決別、リック・ウェイクマンとユニットを結成しアルバムを制作した。またそっくりさんボーカルと息子の代役キーボードでツアーを終えたイエスの方は、この二人を正式メンバーとしてイタリアのレーベルと新作アルバムを録音する契約を結んだことを発表している。
 些細なことで、どんどんこじれていくのがいかにもイエスらしいのであった。

 さて、この映像はオマケ。素人のカヴァー演奏みたいな映像だが、この3人は「カリフォルニア・ギター・トリオ」と言って、ロバート・フィリップのギター講座からデビューしたフィリップの愛弟子バンドである。なので、横でベースを弾いているおっさんはよく見れば、トニー・レヴィンさん。うう、しかもあとから出てくるボーカルは、本物のジョン・アンダーソン教祖です。参った!

カリフォルニア・ギタートリオ